太田衣のエッセイ

男性です。ほろよいに任せた雑談、日記、思っていること。古の記憶の発掘。記事内にプロモーションが含まれることがあります

シャ乱Q『ズルい女』を歌おう

ズルいという言葉

 かつては、裏切り、抜け駆け、不誠実などネガティブな意味合いで使われることが多かった『ズルい』という言葉だけれども、いまでは、時間効率がいいこと、お得なこと、苦労しないこと、巧妙なこと、などポジティブな意味合いで使われることも多くなってきて。今後の語義の変化がとても楽しみな言葉だ。

ズルい女


www.youtube.com

 たとえば、シャ乱Q『ズルい女』。1995年にして発表されたつんく♂さんが作詞・作曲の楽曲だ。バブル崩壊から数年たった時期に、ほんとうにズルいタイトルだと思う。巧妙という意味で。

 

 高級ジュエリーや高級レストランなど、バブル期の雰囲気漂うワードで恋人との思い出を語る主人公は、とても哀愁漂っていて。わるくいえば、時代遅れ。そんな主人公が、恋人のことをズルいとネガティブにいい放つ。元恋人は時代遅れの男をふって、ズルい生き方、したたか(誤用の方)な生き方もできる先の時代に一足先に踏み出しているようだし、一方で、主人公は恋人にも時代にも後ろ髪を引かれている。そんな状況がうかがえる歌詞。

 「これからは、努力と根性を大切にする昭和的な生き方と、ずる賢い平成以降的な生き方が価値観を違えながら共存してしまう時代ですよ」という、つんく♂時代感覚の鋭さを『ズルい女』から感じてしまう。

 

コミュニティ内の価値観の分断

 コミュニティというのは、集団内の価値観が近ければ近いほどパワフルだ。

 たとえば、日本の高度成長というものは、日本に住む人達がズルをせず、努力や苦労を称賛し、また、お互いズルをしないようにを監視しあって。ズルをしている人がいればコミュニティから排除して、という、ズルを許さないシステムによって成し遂げられたもの。

 そして、バブル崩壊後、失われた三十年というもののは、一部がずる賢く、したたかに、一部が努力と根性を依然大切にしていて。違えた価値観の人たちが共存してきた時代だった。ふと、ずる賢く生きようと思えば、努力と根性を大切にしている人が足を引っ張ってくるし、努力と根性を大切にして生きようと思っても、ずる賢く生きる人が目にはいってしまうとやるせない気持ちになってしまい、お互いが窮屈そうに生きている。

 

 そんな時代だ。稀代のオピニオンリーダーであるつんく♂さんが時代の始まりに歌った「ズルい女」を思い出すといいかもしれない。努力と根性を大事にしていきようという人はあいかわらず、ずる賢い人たちをズルいと言いつづければいい。そして、ずる賢くいきたい人は、それをポジティブな褒め言葉だと解釈してしまえばいい。

 

 ズルいという言葉の多義化には、そんなパワーを感じる。

 

ブログランキング・にほんブログ村へ